プログラム

<講演会報告>

2026年度 第1回講演会 実施報告
自動車塗装のCNを考える研究会 最終報告
〜4年間の協調活動から、社会実装と技術開発の次の段階へ〜

 2026年6月26日(金)に、「自動車塗装のCNを考える研究会 最終報告」と題した講演会を開催いたしました。当日は多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。

 カーボンニュートラル(CN)の実現は、自動車産業、とりわけ多くの熱エネルギーを使用する塗装分野にとって重要かつ難度の高い課題です。国内自動車OEM8社は日本塗装技術協会に「自動車塗装のCNを考える研究会」を立ち上げ、4年にわたり企業の垣根を越えて議論を重ねてまいりました。研究会では、エネルギー利用、塗料・材料、工程革新、将来シナリオという多角的な視点から、各社に共通する課題の抽出と方向性の検討を進めてきました。

 本講演会は、その活動の集大成となる最終報告の場となりました。各ワーキンググループ(WG)より、検討の経緯、得られた知見、定量評価、社会実装に向けて残された課題が報告されました。単に将来技術を紹介するのではなく、OEM各社が共通の物差しと問題意識を持ち、サプライヤーを含む産業界へ具体的なニーズを発信した点に、本研究会ならではの大きな意義がありました。以下に各講演の概要をご紹介いたします。

■第1講演
「自動車塗装のCNを考える研究会 オープニング」
株式会社SUBARU 仁志 匡宏 様

 本講演では、2050年のCN実現に向けて自動車塗装分野が果たすべき役割と、研究会設立から今日までの歩みが紹介されました。塗装工程は自動車生産におけるCO2排出量の大きな割合を占めるため、CN達成には従来技術の改善だけでなく、材料・設備・工程を横断する革新的な取り組みが不可欠です。

 第1回勉強会ではOEM共通の課題と必要技術を提示し、第2回では検討結果と方向性を具体化しました。今回の最終報告では、社会・経済・政策・技術を取り巻く環境が大きく変化する中でも、各社が個別に進むのではなく、共通課題についてベクトルを合わせ、産業界全体でCNを目指すという研究会の原点が改めて示されました。

■第2講演
「エネルギー置換WG 〜エネルギー利用を共創する〜」
トヨタ自動車株式会社 加藤 大雄 様/株式会社SUBARU 矢野 健太郎 様

 エネルギー置換WGでは、既存工場の塗装工程で幅広い温度帯に使用されているガスエネルギーを、電化または代替燃料へ転換するための検討成果が報告されました。100℃未満の領域ではヒートポンプによる電化が有力であり、100℃を超える領域でも高温ヒートポンプや蒸気生成型ヒートポンプの進展によって、適用可能性が広がりつつあることが示されました。

 一方、機器を単体で置き換えるだけでは十分ではなく、工場内の温熱・冷熱・排熱を把握し、工程全体で組み合わせるサーマルマネジメントが重要です。前川製作所、一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター(JEHC)、中部電力ミライズなどとの勉強会・見学を通じ、技術を「知る」「組み合わせる」「熱源と需要を近づける」「未利用熱を拾う」という実践的な視点が共有されました。

 また、水素、e-メタン、バイオガスなど代替燃料の可能性も整理されました。CN達成に向けた第一候補は電化である一方、最大の壁は社会実装と経済性です。OEM単独では、工場全体の最適設計やインフラ整備までを完結することは困難であり、設備・エネルギー関連サプライヤーとの共創が必要であるという明確なメッセージが示されました。

■第3講演
「CFP WG 〜塗料原材料の転換がもたらすCFP削減インパクト〜」
日産自動車株式会社 鈴木 達也 様

 CFP WGでは、塗装に関わるカーボンフットプリント(CFP)を共通の条件で評価するための「ものさし」づくりと、塗料原材料のバイオマス化・リサイクル化がもたらす削減効果について報告されました。従来は各工程・各社で必ずしも統一されていなかった算定範囲と前提を整理し、Scope 1・2に加え、Scope 3のCategory 1、4、5、12を対象として、材料ごとのCFP原単位を共通データベースから参照する考え方を定めたことは重要な成果です。

 共通の算定基準により、代表的な塗装ラインの工程別CFPと使用材料由来のCFPを同じ物差しで比較できるようになりました。これにより、再生材やバイオ由来原料の採用効果を定量化し、コストだけでは判断が難しかった材料転換について、インターナルカーボンプライシング等も含めた投資判断へ結び付ける道筋が示されました。

 さらに、車両ライフサイクル全体でのCFP低減には、塗料原材料だけでなく母材の資源循環が欠かせません。特に樹脂部品のリサイクル性を高めるうえで塗膜剥離技術の確立が重要であり、塗装技術側から循環設計へ働きかける必要性が示されました。Scope 1・2の削減の先を見据え、Scope 3とサーキュラーエコノミーをつなぐ視点を提示した講演でした。

■第4講演
「CNシナリオ検討WG 〜未知なる問題から顕在化した問題へ〜」
株式会社本田技術研究所 近藤 益雄 様 / ダイハツ工業株式会社 棚橋 朗 様
三菱自動車工業株式会社 三宅 正幸 様

 CNシナリオ検討WGでは、個社の視点を離れ、「業界全体としてCNを実現するにはどうすべきか」という研究会の志に立ち、将来の不確実性を踏まえたシナリオプランニングの成果が報告されました。政治・経済・社会・技術の環境変化を整理し、CN規制、エネルギー価格、労働人口、資源循環、塗装代替技術などが相互に影響する中で、単一の未来予測ではなく複数のシナリオから課題を捉える重要性が示されました。

 検討は、既存塗装工程の正常進化によるミストレス、ベーパーレス、空調レス、プレヒートレスへの方向性と、それを実現する材料・設備ニーズの具体化に及びました。また、シーラー・UBCなど副資材について、使用量低減、ケミカルリサイクル、バイオマス材料の活用を組み合わせ、Scope 3削減から資源循環へ進むシナリオも提示されました。

 研究会発足当初には輪郭が見えていなかった課題を、企業間で共有できる「顕在化した問題」へ変えたことが、このWGの最大の成果です。目指す姿の共通認識と協調領域での課題整理は完了し、今後は必要な企業同士が研究・技術開発を競争領域として加速させる段階に進むとの結論が示されました。

■第5講演
「ブースレスWG 〜スプレー塗装とフィルム・インクジェット工法の比較検討〜」
トヨタ自動車株式会社 林 晃基 / スズキ株式会社 市川 貴士 様
日産自動車株式会社 山田 誠 様 / 三菱自動車工業株式会社 渡曾 契 様

 ブースレスWGでは、塗装ブースを小さくする、さらには無くすという発想から、従来のスプレー塗装、フィルム、インクジェットの3工法を、CO2、コスト、品質・付加価値、リサイクル・廃棄物の観点で比較した成果が報告されました。ルーフおよびバンパーを具体例とし、共通条件を置いたうえで定量的に検討した点が特徴です。

 フィルムは、塗装と比較してCO2低減の可能性が高い一方、材料費、生産能力、歩留まりが主要課題です。材料構成と製造コストを詳細に分析し、保護フィルム削減、層構成・材料の共通化、薄膜化、設備サイクル短縮などの原価低減策を積み上げた結果、一定のコスト低減余地が示されました。それでも従来塗装同等のコストを目指すには、材料費の一層の低減と歩留まり向上が必要であり、材料・設備・OEMの連携が不可欠です。

 インクジェットは、塗着効率がほぼ100%で、意匠の自由度やカスタマイズ性に優れる一方、自動車外板への適用には、メタリック色、複雑形状、塗布距離、加工能力、耐久品質などの課題があります。加工能力を補うため設備を増やすと、ブース空調等のエネルギーが増えるため、必ずしもてCO2が大幅に減るとは限らないという、定量評価ならではの示唆が得られました。

 さらに、現行スプレー塗装についても、高塗着効率化、ドライブース化、空気リサイクル、風量・ブースサイズの最適化を組み合わせることで、大幅なCO2低減余地があることが示されました。3工法に一律の優劣を付けるのではなく、部位、意匠、生産量、品質要求に応じて使い分けること、そして代替工法と既存技術の双方を進化させることが重要であると理解できる講演でした。

■第6講演
「自動車塗装のCNを考える研究会 エンディング」

マツダ株式会社 野田 卓哉 様

 エンディングでは、研究会の活動成果を産業界へ発信する現在地と、その先にある開発ステージが示されました。今回までの活動は、OEMから業界へ方向性とニーズを示し、評価軸、有効性、課題を議論する協調領域に位置付けられます。今後は、必要な企業による要素研究やコンソーシアム、さらに各社の製品開発・量産化へと段階を進め、競争領域で技術を磨くことが期待されます。

 CN、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを含む大きな目標と不確実性を見据えながら、今回の最終報告を終点ではなく、新たな技術開発と共創の起点にしていくという力強い締めくくりとなりました。

■総括
 本講演会を通じて、自動車塗装のCNは、特定の設備や材料を一つ導入すれば達成できる課題ではなく、エネルギー、材料、工程、製品設計、資源循環、サプライチェーンをつないで最適化すべきテーマであることが改めて認識されました。

 4年間の研究会活動で得られた最も大きな成果は、個社では捉え切れなかった課題を業界共通の言葉と物差しで整理し、「何を解くべきか」を具体化できたことにあります。電化・代替燃料の選択、CFP算定基準、材料転換と資源循環、塗装代替工法、既存塗装の正常進化など、提示された方向性に唯一の正解はありません。しかし、定量評価と率直な議論を通じて、協調して取り組む領域と、各社が技術開発を競う領域が明確になりました。

 今後は、本研究会が示したニーズを起点に、OEM、材料メーカー、設備メーカー、エネルギー事業者、研究機関がそれぞれの強みを持ち寄り、社会実装へ踏み出すことが求められます。研究会としての最終報告は一区切りですが、ここで顕在化した課題への取り組みは、まさにこれからが本番です。本講演会が、自動車塗装分野のCN実現に向けた次の一歩を考え、新たな連携を生み出す契機となれば幸いです。

 ご講演いただきました講師の皆様、長年にわたり研究会活動を支えてくださった参画各社・関係者の皆様、ならびにご参加いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。アンケートにていただいた貴重なご意見は、今後の企画・運営に活かしてまいります。

2026年度 第1回講演会 実行委員長 後藤丈志

主催一般社団法人日本塗装技術協会
協賛日本化学会色材協会日本塗料工業会
日本塗装機械工業会高分子学会日本工業塗装協同組合連合会
日本自動車車体工業会日本防錆技術協会材料技術研究協会
日本レオロジー学会日本印刷学会日本建築仕上学会
日本塗料検査協会日本油化学会腐食防食学会
自動車技術会静電気学会日本粉体工業技術協会
国際工業塗装高度化推進会議エポキシ樹脂技術協会日本エレクトロヒートセンター

 
期日2025年 6月 26日(金) 09:50〜18:30
会場日本ペイントホールディングス株式会社 東京事業所 センタービル1Fホール
(東京都品川区南品川4-1-15)

参加費日本塗装技術協会及び協賛学協会会員22,000円
非会員29,700円
学生参加者3,300円

プログラム
講師の方の敬称は略させていただきます。

09:50
開会の挨拶とガイダンス  実行委員長 後藤 丈志 ((株)大気社)
10:00
〜
10:10
(Q&A含む)
「自動車塗装のCNを考える研究会 オープニング」
1 SUBARU 仁志 匡宏
概要:
自動車塗装工場におけるカーボンニュートラルを達成するため、日本塗装技術協会の中に国内自動車メーカーが結集して研究会を発足して4年。
今回は最終回として、今までの発信内容を基に、将来に向けて何をするべきなのか、議論を深めてきた内容を紹介する。

休憩(5分間)
10:15
〜
11:25
(Q&A含む) 
「エネルギー置換WG 〜エネルギー利用を共創する〜」
2 トヨタ自動車 加藤 大雄
SUBARU 矢野 健太郎
概要:
日本のCNは制度的にも待ったなしで、電化や水素を含む将来像は避けて通れない。今回、電化の主戦場であるヒートポンプについて、使い方や高温化をサプライヤーと本音で議論してきた。本WGを通じてOEMが学んだことは多く、各社の最新エネルギー事情を踏まえ、共に取り組む姿勢のもと、協調テーマを提案力と開発力でサプライヤーと共に形にしていきたい。

休憩(10分間)
11:35
〜
12:30
(Q&A含む)
「CFP WG 〜塗料原材料の転換がもたらすCFP削減インパクト〜」
3 日産自動車 鈴木 達也
概要:
自動車ライフサイクルにおける塗装に関わるCFP算定方法を確立し、車両1台あたりの塗装CFPを試算した昨年度の成果を基盤として、本報では塗料原材料のバイオマス化・リサイクル、さらに塗膜剥離による母材リサイクル促進がもたらすCFP削減インパクトについて検討した結果を紹介する。

昼食休憩(60分間) お弁当・お茶を用意します
13:30
〜
15:00
(Q&A含む)
「CNシナリオWG 〜未知なる問題から顕在化した問題へ〜」
4 本田技術研究所 近藤 益雄
ダイハツ工業 棚橋 朗
三菱自動車 三宅 正幸
概要:
自動車塗装のCNへの対応について、未知なる問題を顕在化した問題へ昇華させるべく、シナリオ検討を実施してきた。今回、深化として、既存工場のCNへの取組み及びシーラーのリサイクルをシナリオとして議論してきたので、ここに報告する。

休憩(10分間)
15:10
〜
16:25
(Q&A含む)
「ブースレスWG 〜スプレー塗装とフィルム・インクジェット工法の比較検討〜」
5 トヨタ自動車 林 晃基
スズキ 市川 貴士
日産自動車 山田 誠
三菱自動車工業 渡曾 契
概要:
塗装ブースは自動車塗装工程で最もCO2排出量が多い工程で、ブースレスWGでは、将来、塗装ブースを無くす、または小さくする方策を検討してきた。今回はスプレー塗装の代替技術としてのフィルム、及びインクジェット工法について、現状・嬉しさ・課題・今後の方向性をスプレー塗装と比較して紹介する。

休憩(10分間)
16:35
〜
16:45
(Q&A含む)
「自動車塗装のCNを考える研究会 エンディング」
6 マツダ 野田 卓哉
概要:
これまで3回の勉強会を通じてCN達成に向けた方向性をOEMワンボイスの提案で業界へ発信してきたが、今後はSTEP2(個社開発)に移行し、STEP1で示した方向性で技術開発を進め、業界全体でCN実現をめざす。
本講演では、総括するとともに、今後より厳しくなる環境動向にも注目していくことなどを紹介する。

16:45
〜
16:50
今後の連絡(事務局)、閉会挨拶 実行委員長
16:50
〜
17:00
アンケート記入 当日QRコードを掲示致しますのでそちらから記入お願い致します
17:00
〜
18:30
懇親会 WG毎にブースを設置します ネットワーク構築を是非!


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